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ハラル化粧品がニッチ市場から脱するために

明洞の一角は地元では 「コスメロード」としても知られている。The Face ShopからSkin Food、Nature Republic、Innisfree、Missha、Etude Houseに至るまで無数の化粧品店が並んでいることがその由来だ。しかし中でも一つの店舗は一風変わっている。

近隣に6店舗を構えているTalent CosmeticはマットリップやBBクリームなどの美容製品からクレンジングオイル、シートマスクなど様々な製品が置かれている。そして2014年12月には、韓国においてマレーシア政府からハラル認証を受ける初めてのメークアップ会社となったのである。マレーシア・イスラム開発省(通称JAKIM)から受けた認証をつけることにより、どの製品がイスラム法に則った方法で生産されているのかがわかるようになっている。同社の販売する550の化粧品のうち認証を受けている製品の数は147にのぼる。

しかしムスリム人口がほとんど存在しない韓国において、これまで化粧品の広告に人気K-popバンドなどを起用してきたTalent Cosmeticのような化粧品メーカーが、なぜハラル認証取得に乗り出したのだろうか?

Talent CosmeticのCEOであるKang Sung-Jin氏はソウルで開かれた記者会見において、「マレーシアから認証を得ることによって、イスラム市場での事業拡大への足がかりを固めることができた」と話した。韓国企業がアジア南方での市場拡大を目指すという傾向が明らかになってきている。

CIA World Factbookによると、マレーシア国民の60%以上がムスリムであり、世界最大のムスリム人口を誇るインドネシアに至ってはその割合が88%に及ぶ。この人口分布を見れば、世界最大のハラル化粧品市場は東南アジアにあると言っても過言ではないだろう。

「アジア太平洋地域には多くのムスリムが住んでおり、マレーシア、インドネシア、インドなどにおける可処分所得は増加傾向にあるため、ハラル化粧品市場は大きく成長してきている」と、市場調査会社TechnavioのアナリストVijay Sarathi氏は話す。

中東には裕福な消費者が数多く住むこともあり、ハラル美容という分野が世界的に魅力的な市場として存在感を増している。Thomson Reutersでイスラム金融市場を担当するSayd Farook氏は自身のレポート「State of the Global Islamic Economy 2015」の中で、世界全体のムスリムの化粧品への消費額は2013年に460億ドルで、全消費額の6.78%を占めているが、2019年には730億ドル、8.2%にそれぞれ増加するだろうと見られている。このうちの大半がハラルの製品に向けられることになる。Technavioによると、2015年のハラル化粧品市場は全体で234億ドルだが、今後年平均14.3%で成長し、2020年には450億ドルに達すると見られている。

「潜在的な需要と好調なトレンドを見てみれば、原材料の生産やオーガニックなハラル化粧品のグローバル・ブランドは今後の可能性があるだろう。大企業もこの分野を開拓する上で主導権を握っていくことでチャンスが広がっていくだろう」とFarook氏は話す。

宗教論争

ムスリムの女性にとって、宗教の信仰と美容の間でバランスを取ることはときに困難を伴う。ハラル食品は多くのムスリムが必須と考えているのに対して、ハラル化粧品の使用は一律的にイスラムにより強制されているものではない。加えて、化粧品ブランドの多くはこれまでこのニッチ市場を無視し誤解してきたこともあり、問題を複雑化させている。ではハラル製品となるためには何が必要なのだろうか?

Euromonitor Internationalで美容製品市場を専門とする上級研究員であるOra Mohiuddin氏は以下のように説明する。「ハラルを理解するためは、ハラルとは単にイスラム教の教えに沿った材料かどうかということではなく、ムスリムにとっては人生への向き合い方全般を示したものであるという点が重要だろう。ハラルとは、fard(義務)、mustahabb(推奨)、halal(認められている)、makruh(疎まれている)、haram(禁止されている)という、倫理観を定義した5つの教義の一つを成している。」

イスラム法の一般的な解釈では、ハラル化粧品には豚や犬など禁止された動物の成分が含まれていてはならず、清潔な器具で取り扱われている必要があり、人体に有害な成分を使ってはならないとされている。しかしMohiuddin氏は、「ハラルとは生活全般を規定したものだということから考えれば、ハラル化粧品と言う考え方には製造成分だけでなく、生産方法、包装、流通、物流に至るまでの全てが含まれることになる」と続けた。

マレーシアのJAKIMはこれまでハラル基準を満たしている製品について、世界中で73の認証機関と相互認証してきた。中東諸国においては、ハラル安全基準を新たな機関のもとで統合しようという試みが行われている。2013年にはアラブ首長国連邦の規格・検量協会が、香水や化粧品についてのハラル統一規定を策定した。「新たに施行されたシステムは、UAE国内企業だけでなく他のイスラム諸国にとっての統一基準となっていくだろう」と、同機関の長官であるMohammad Saleh Badri氏という声明を出している。

ニッチ市場
化粧品という分野においてハラルの定義は曖昧なため、ハラル化粧品を作っているのは、市場で流通している商品を見つけることのできなかった起業家が自ら設立した中小企業であることが多い。「現時点でハラル美容品市場はニッチな企業によって占められている」とMohiuddinは話す。

その一例がIba Halal Careだろう。イスラムがヒンズー教に次いで国内第二の宗教であるインドにおいて、Iba Halal Careは初めてハラル認証を受けた化粧品ブランドである。Pew Research Centerの調査によると、インドは2050年までにインドネシアを抜いて世界最大のムスリム人口を抱える事になるという。創業者であるMauli TeliとGrishma Teliの姉妹は2014年9月にIba Halal Careの初店舗を出店する前に、最初の会社であるEcotrailを作って研究することに6年間を費やしている。

彼女たちの成功はすぐにやってきた。Ibaは初の単独店舗をAhmedabadに作ると、一年でインドにフランチャイズ網を築き上げ、AmazonやFlipkartなどのオンライン店舗を世界中で展開している。Ibaは今ではリップスティック、フェイスクリーム、ボディローション、ヘアーオイル、シャンプー、デオドラント、香水など80以上のハラル認証製品を提供している。「ハラル製品のみを扱うということで、消費者の信頼を集めることができているのだろう」とEuromonitorのMohiuddin氏は言う。

西側諸国に住むムスリムも、これらニッチ市場の企業にとってはチャンスとなる。2011年に立ちあげられたAmara Cosmeticsはハラル認証を受けた化粧品をアメリカで初めて生産する、という北米初の企業である。創業者であり最高経営責任者であるShamalia Mohamedはムスリムが購入前にラベルを見て確認しないでも簡単に購入できる化粧品ブランドを作りたいと考えている。「Amaraの化粧品は全てカリフォルニアで生産・包装され、非営利ハラル認証機関であるIFANCAの認証を受けている」と説明する。

「ハラル製品を専門的に扱う小売店が増加していることを受け、アメリカにおける製品販売は年80%のペースで増加している」とTechnavioのSarathiは言う。「ヨーロッパの環境は進んでおり、ハラル化粧品がハラル専門店やインターネットで購入できるようになっている。サウジ航空などの航空会社では機内販売もしているくらいだ。」

この他にもWardahやOnePure Beautyなどの専門メーカーが数多くあり、バラの花びら、ザクロ、ニゲラオイル、ベジタブルバターをハラル化粧品の生産に利用しており、Galeries Lafayetteなどの一流デパートで販売されている。イスラム系のブランディングやマーケティングを行うコンサルティング会社であるOgilvy Noorの副社長であるShelina Janmohamedによると、これらの会社はその製品がハラル・フレンドリーというだけでなく、彼らの消費者がどのようなライフスタイルを送っているかを現していると言う。

ターゲット市場

現在ニッチ企業が市場を支配しているのかもしれないが、国際的企業のなかにも、この金になる市場に目をつけている会社はある。日本企業の資生堂はベトナムで2012年にハラル認証を取得し、マレーシアにおいてZaというブランドで28のハラルスキンケア製品を販売し始めている。資生堂の広報である遠藤竜義氏は「将来の計画をたてるため、現在は試験的な販売から査定をしているところ」であると話している。アメリカのメークアップ会社Estee LauderはMuslim Consumer Groupのページに幾つかの商品をハラルとして掲載しており、Colgate-Palmoliveは歯磨き粉やうがい薬などの口腔ケア製品にハラルマークを付けて販売している。

しかし世界中のムスリム消費者の中でも中心になる人達の間には、ハラル化粧品やハラル薬品に対して幅広い考え方があると、Sarathiは注意を促す。ムスリム市場と言っても世界中で均一的なものではなく、文化的な多様性とは違い、社会的な状況に対する対応や移民の状況によって大きく影響を受ける社会文化的要素が多種多様に入り混じったものになっている。

このようなことが原因となり、現在のムスリム消費者はそれぞれが独自の価値観やイスラムの解釈方法を持つようになっており、多様な消費者層を作り上げている。「このため、国際企業はイスラムの形式をきちんと理解することが求められている。消費者の視点で言えば、ハラルは販売している全てのブランドや商品を含めた、会社の哲学全体を現しているものなのだ。」

「ハラルとは材料や工程の安全性を意味している。これを前提として、ハラル化粧品の利用者は、安全なメークアップを求める層や、アルコールなど非ハラル原材料による皮膚へのダメージを減らしたいと考える層で増えてきている」とインドネシアのファッション・デザイナーで、高校以来ハラル化粧品を使っているDian Pelangiは話す。

ドーハに住むブロガーで、Desert Mannequinを運営し、カタールのブティックPer Lei Coutureでファッション・デザイナーを務めるAnum Bashirは「皮膚に優しい製品を使い、化粧品に実際何が使われているのかを知るということはとても大切だ。しかし美容系のブロガーたちの多くは、他の世界的なメークアップ・ブランドを扱うようにハラル化粧品について話すことがない」と言う。「まだ大企業から市場の関心を奪うことができるようなハラル美容品会社はあまり多くない。もしTom Fordがハラル・メークアップの商品を発表すれば、あっという間に売り切れるだろう。」

業界関係者はハラル化粧品が非ムスリム国でも人気を得てきていると考える。「世界中のムスリム人口は2050年までに50%増加すると予想されているが、健康や健全な生活に対する注目が高まっていることを考えれば、ハラル化粧品やハラル日用品が主流派になっていくだろう」とSarathiは言う。

製品に対する規制

オーガニック製品やフェアトレード製品を求める動きと同じように、ハラル化粧品市場もあいまいな点が数多くあり課題が出てきている。その一つとして挙げられるのが、市場を規制できるような世界的なハラル認証機関の欠如である。ハラル製品は通常国内やローカルの認証団体から認可を受け、イスラムの決まりに従っていることを証明するようになっている。ヨーロッパやアメリカでは多くの場合認証をするのは第三者団体であり、世界的には各機関や地域における統一性が無いことが問題になっている。

自治体や地方企業が直面しているもう一つの問題は、ハラル製品の開発や生産に伴う成約や高コストである。Sarathiによると、許容数値を狭く設定してしまえば、小規模なハラル・ブランドは大企業のブランドに太刀打ちできなくなってしまうだろうと言う。

Mohiuddinはこの点に同意している。「規制は厳しくなり、認証を得ることになればコストが増加する。使用できる原材料の許容範囲が厳格に適用されれば、生産ブランドは自然由来やオーガニックの原材料に頼るようになるが、供給量に限りがあるため価格は上がるだろう」と言う。

化粧品業界におけるハラルの広がりはいくつかの課題を抱えているものの、多くの企業はこれを見逃せないチャンスだと思っている。成長するニッチ市場で突出するためには、化粧品のサプライヤーやメーカーが複雑なハラル規準を満たして消費者の信頼を得るというだけに留まらず、それ以上の対応をする必要がある。

「国際企業がハラル認証を得るだけではダメで、成功するためには独自のブランドイメージを作り、わかりやすいマーケティングのメッセージを送ることが必要になるだろう」とMohiuddinは話す。

 The Business of Fashion