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【挑戦ハラル】熊本、ハラル食肉でリード:輸出もにらみ鶏・牛認証を取得

アラビア語で、「イスラム教の教義で許されるもの」を意味するハラル。インドネシアをはじめイスラム教徒が多く住む国の経済成長とともに、日本でもクローズアップされるようになった。食や観光の分野では今やハラル対応が合言葉となり、その波は地方へも拡大している。商機はあるのか。イスラム教徒側の受け止め方はどうなのか。積極姿勢が目立つ熊本県と京都府での動きを中心に、シリーズで取り上げる。

「天草で生産する分は将来、全てハラルにします」(蓮池養鶏場の蓮池直次郎社長)――。
最大で6.7キログラムにも達する堂々たる体格とコクのある味わいで知られる熊本県天草地方の地鶏「天草大王」。博多水炊き用などに珍重されるこの高級ブランド鶏を、イスラム教徒も食べられる「ハラル鶏」にしようというプロジェクトが進められている。
イスラムの戒律にのっとって加工処理を行う蓮池養鶏場は、天草市中心部の本渡にある。今年3月に地鶏処理場として初めて日本国内のハラル認証を取得し、国内の飲食店、食肉加工業者向けなどにハラル天草大王の出荷を始めた。
蓮池養鶏場の加工室をのぞくと、数人の作業員がてきぱきと解体作業を進めていた。ハラル処理に必須な常駐イスラム教徒として、インドネシア人のサトリア・フェクスタさんがいる。

 蓮池社長によると、6月末時点で月550羽程度が「はばたいた」。今月からは出荷ペースを加速させる。さらに来年1月には新しい処理場が完工する見通しで、それを機に海外で有効なハラル認証の取得を目指すという。
天草大王のハラル化を生産者に提案したのは、総合食品商社の佐藤長八商事(山形屋、東京都台東区)だ。もともとソーラー発電事業で天草と縁ができ、その流れで地域産業の活性化に関わる中、天草大王をハラル化する構想を提案した。海外、特に鶏肉消費量が多い東南アジアに売り込もうという構想が持ち上がり、生産者の理解も得てハラル認証の獲得にこぎ着けた。
 
■目指すは中東
今後、天草地方で生産する天草大王は全てハラル化していく計画。生産自体は飼料をハラル対応にすればよいだけで、コストもそれほどかからないので、短期のうちに実現したい考えだ。
もちろん国内向けだけでなく輸出も狙う。当初は東南アジア向けを念頭に置いていたが、熊本市内で取材に応じた関係者によると「難しい」。最大市場のインドネシアは国内養鶏業保護の観点から日本産鶏肉の輸入に関心を示していない上、天草大王は現地で売られている鶏肉よりはるかに高価なためだ。マレーシアについても現地の食品貿易関係者は「日本産の鶏肉は全く可能性がない」と話す。
現在ターゲットとにらむのは中東だ。富裕層の購買力では桁違い。今年2月にアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで開かれた食品関連見本市に出展したところ、人気を博したという。
「アッパーミドル、良い物にお金を惜しまない層を狙う。そうなるとやはり中東だ。湾岸諸国だけでも日本より市場は大きいはず」(佐藤長八商事の関係者)と期待を寄せる。
 
■「おいしい牛肉を食べたい」
熊本県にはもう一つ、ハラルに果敢に取り組んでいる企業がある。牛肉を専門に処理する企業として現在、日本で唯一、海外ハラル認証を取得しているゼンカイミート(錦町)だ。
「日本のおいしい牛肉を食べたいのに食べられない」。萩原新一社長が、東南アジアから来たイスラム教徒留学生のそんな声を耳にしたのは約8年前。長期にわたってデフレが続く中、大手に対抗して生き残りを模索し、「オンリーワン」を追い求めていたころだった。
それまでハラルとはまったく縁のなかった萩原社長は、日本国内に留学生などのイスラム教徒が10万人いることを知り、「わが社が彼らにハラル牛肉を届ければ、大手に勝てるのではないか」と考えた。
具体的な方策を模索しているうちに、後にマレーシアハラルコーポレーション(現MHC、東京都港区)を創業するアクマル・アブ・ハッサン氏と出会う。2人でマレーシア、タイ、インドネシアを訪れ、最終的に12年7月、インドネシアのイスラム指導者会議(MUI)から認証獲得に成功。現時点でほかにトルコと日本国内の認証も得ている。

 日本国内向けの供給のほか、機内食用の食材としての出荷も視野に入れる。あくまでも柱は国内市場であり、輸出については「2次的なもの」との位置付けだが、インドネシアが日本産牛肉の輸入を解禁するのを待って、同国への輸出も検討するという。
県もゼンカイミートがMUIの認証を獲得したことを受け、12年12月に在インドネシア日本大使館が開いたレセプションで同社のハラル牛肉をPRした。
日本からインドネシアへの牛肉輸出は、現在進行中の両政府による二国間交渉が妥結し、解禁となるまでできない。県は輸出が解禁されれば知事によるトップセールスの実施など、販促活動の強化も視野に入れる。
戦略として関係者の間では、他の牛肉との差別化を図るため、交雑種とともに黒毛和種のハラル牛肉を用意し、インドネシアの富裕層向けに高級品として売りたい考えがあるようだ。

GIJ

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