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イスラム対応食 県内で続々 東京五輪追い風 訪日観光客を狙う 埼玉

 豚やアルコールを口にできないイスラム教徒(ムスリム)向けの「ハラル食品」を扱う店や企業が、県内で増えている。関係者が期待するのは、ムスリムの多い東南アジアからの訪日観光客。「二〇二〇年の東京五輪開催に向け、今後さらに需要が高まるはず」と先を見据える。

 さいたま市中央区の和食店「割烹(かっぽう)やま」は六月、原材料に豚やアルコールを使わない「ハラル」の和食を始めた。天ぷら、たけのこご飯、ホタルイカのしぐれ煮…。メニューには、日本ならではの料理が並ぶ。

 アルコールを含む酒、みりんは使わず、フランス料理を参考に、鶏がらスープで和食のコク、うま味を再現。調理器具が、豚やアルコールと接触するのを防ぐため、専用のキッチンも約一千万円をかけて整備した。

 店の山田裕貴代表(27)は「せっかく日本に観光にきたのに、和食を食べられないのはもったいない。ハラル和食を通じて、日本の魅力を伝えたい」と話す。

 さいたま市北区にある江戸時代後期創業の漬物店「河村屋」は、アルコールを含む調味料を使わず、白菜やキュウリの漬物を開発中。同社営業部の担当者は「日本の伝統食として、興味は持ってもらえるはず。受け入れの体制を整えていきたい」と話す。

 ほかにも埼玉大学が五月から、学生食堂でハラルの肉料理やカレーを提供。県は六月、生産額全国一位の化粧品のハラル化を支援するため、業者向けの研修会を開催した。

 日本政府観光局(JNTO)によると、最近、ムスリムの多いインドネシアとマレーシアからの訪日客が急増。昨年は両国から約三十一万人が日本を訪れた。特に、昨年七月、東南アジアからの訪日ビザが免除、要件が緩和されて以降は約四割のペースで増えている。

 山田代表は「ビザの免除、緩和に加えて、東京五輪の開催決定も大きな追い風。ビジネスとしてもチャンスと捉えている」と意気込む。

 ムスリムの県内への本格的な受け入れに向けては、礼拝できる場所の少なさなど課題も指摘される。

 モロッコ出身のムスリムで、さいたま市中央区在住のシャブリ・サバさん(43)は「イスラム教では食事だけでなく、一日五回の礼拝も重要な日課。日本では、お祈りの場所がなく困ることが多い」と話す。このため旅先などではまず、モスク(イスラム教礼拝所)を探すという。

 県内で礼拝できる部屋などが整備された観光スポットがあるかどうかは、県観光課も「把握していない」のが現状。シャブリさんは「日本に興味があっても食事やお祈りの場所が不安で、日本に来るのを思いとどまる人は少なくない。東京五輪をきっかけに、理解や取り組みが広がってほしい」と期待した。

 <ハラル> イスラム法で合法とされる食事や化粧品、サービスなどをハラルと呼ぶ。各国に多くのハラル認証をする機関があり、イスラム教で摂取が禁じられている豚肉やアルコールを含まない食材か、ルールに従って処理・加工されたかどうかなどを厳しく確認している。日本でも認証を与える宗教法人やNPO法人などが近年増加、世界的に統一された基準はない。

東京新聞