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マレーシア:ハラル治療で中東諸国へアプローチ

医療観光客の増加を目指すマレーシアでは、中東諸国から医療目的で訪問してくる旅行者に対し、かつてないほどの注目が集まっている。マレーシア健康管理旅行協会(MHTC)によると、マレーシアは2014年に88万人の医療観光客を受け入れている。2015年中にこの数を10%増やすことを目標にしており、2016年までには100万人に達するだろう。2016年度予算には、医療観光を促進し、医療観光部門のGDPへの寄与度を高めるために、これまでよりもさらに多くの施策が導入される見込みだ。

医療観光促進を管轄するMHTCは現在「ハラル健康治療」にとても注目している。イスラム教の国々からの旅行者をマレーシアに呼び込むためだ。 いくつかの病院はハラル認証を受け、ハラル食品を提供し、礼拝室のようなイスラム教徒向けの施設を備えているだけでなく、ハラルな治療処置を提供している。つまり、イスラム法で禁止されている豚肉由来などの製品を排除しているのである。たとえば、病院で広く使われる製品のインスリンは、ほとんどが豚由来だが、ハラル治療では牛由来の製品で代用している。ゼラチンを使った製品や、手術用の縫合糸の場合も同様である。ハラルの病院にある薬局では、患者にゼラチンや豚由来成分の入っていない製品や、ハラルな薬品を紹介している。さらに、マレーシアの製薬会社Halal Industry Development Corporationでは、現在、世界初の髄膜炎(ずいまくえん)と肝炎のハラルワクチンを、2017年の実用化にむけて開発中だ。

マレーシアが医療観光客を呼ぶためのもうひとつの強みは、地理的に競合しているタイとシンガポールとくらべて、マレーシアは医療観光の費用が安いということである。MHTCのCEOのSherene Azura Azli氏によると、マレーシア近隣諸国のなかでも医療観光の目的地として最も人気の高いタイは、以前に比べ医療観光が高額になってきたという。また、2番目に人気のシンガポールでは、現状の人数でも医療観光客の受け入れにすでに苦労している。

治療の費用を考慮すると、たとえば、2014年時点における心臓バイパス手術の費用は、マレーシアでは9,300ドルから16,000ドルの間であるのに対して、タイでは15,000ドル以上、シンガポールでは20,000ドル以上が必要だ。アメリカでは、そのような外科手術にはおよそ144,000ドル程度が必要だ。

マレーシアは中東諸国の中でも特にオマーンに焦点をあてており、国内の病院により多くの医療観光客を誘致したいと考えている。マレーシアが患者の受け入れ協定を政府間で結んでいる国は3つあり、オマーンはリビア、カザフスタンとならびそのうちの一つである。この協定に基づき、それぞれの政府は国民がマレーシア滞在中に受けるヘルスケアサービスの支払をすることになっている。マレーシアの病院と外国からの患者、両者にとってメリットのある取り決めだと言えるだろう。

マレーシアの巨大な病院グループのKPJやIHH Healthcare、Ramsay Sime Darby Healthcare Groupはいずれも、オマーンに医療観光を手配する代理人をおいている。MHTCによると、オマーンの患者のマレーシアへの旅行者数は年率50%の成長を見せている。近年、オマーンは中東諸国のなかでサウジアラビア、UAEに続き、マレーシアへの医療観光客の人数が3番目に多い国になったという。

MHTCはマレーシアを医療の委託先として促進するために、オマーンの保険省とも協働を進めている。マレーシアは中東諸国の観光客の間では医療観光の目的地としてタイやシンガポールと競合しているだけでなく、インドやさらに価格帯の高いドイツなどヨーロッパの国々とも競合している。

このような背景のなか、マレーシアの巨大な病院グループはみな、医療観光客が今後も増加していくことを見越して、ベッドの数や海外からの患者に向けたサービスの拡充を進めている。KPJ Healthcareは2013年に医療観光客から得た収入は売上の4%近くだったが、2020年までにこの割合を25%に増やすことを目指しているという。マレーシア観光文化省次官のAlan Abdul Rahim氏によると、医療業界が医療観光から得る収入の成長率は、第10次マレーシア計画(2011年~2015年)で掲げた目標を毎年10%上回っており、次の第11次マレーシア計画期(2016年~2020年)の成長率は年率15%を記録し、450万ドルをこえる収入が予想されていると言う。

Gulf Times

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