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日本にハラル認証基準は必要か

ムスリム人口が少ない日本国内においてなぜハラル認証が必要と言われているのか。大半の日本人には関係のないことなのに、なぜ日本が宗教に首を突っ込まなければいけないのかについて論点があいまいなまま、ハラル認証の必要性が論じられている。

宗教・文化的な議論を別にして経済面の観点から言うと、ハラル認証が必要な理由は主に二つである。

122-IMG_3947一つは輸出である。例えば効能が同じ二つの商品があるとき、日本人の消費者であれば価格の安い商品を選ぶ事が多いだろう。ムスリムの消費者であれば、ここに「その商品がハラルであるかないか」という判断基準が加えられる。日本のようにハラル認証が数十も乱立しているような状況だと、話は更に複雑になる。輸出国の消費者に認証基準全ての知識を求めることは無理があり、日本の輸出製品はわかりにくいという評判が生まれ、「その他大勢」の競争相手に埋もれていく。結果的に日本の輸出企業全てが不利益を被ることにつながる。

人口縮小する日本国内市場や飽和状態に近い欧米市場に比べると、今まであまり目を向けることがなかった16億人のムスリム人口は富裕化が進んでいることもあり、輸出企業にとって魅力的な市場だろう。そのような企業にとってハラルとは宗教上の問題というよりも、「基準さえ定めてくれれば守っていくもの」「守っていれば市場が拡大するもの」である。日本では感情的な問題はなく、経済的な必要性の議論だけなので比較的わかりやすい。音頭を取って「これが基準である」と定めてくれる人を待っている状態である。

認証基準をバラバラに保っていくメリットは現時点で何もないのだが、統一する時期が遅れれば遅れるほど各認証団体のサンクコストが大きくなり統一のための手間がかかるため、反対の声が大きくなっていくだろう。複数の認証団体同士が自発的に協力するのは難しいので、日本国内で統一するには政府が主導権を握ることが必要になってくる。

もう一つの理由は観光客の誘致、特にレストランの対応である。観光庁は2013年時点で1036万人(暫定値)であった観光客の数を2020年までに倍増させることを目標としている。その取り組みの一環として昨年はマレーシア、今年に入ってインドネシアからの訪日客にはビザ免除が決定されたため、ムスリム観光客が今後一層増加していくと予想されている。

しかし現状ではこのような訪問客の需要を完全に取り込むことができていない。日本ではアルコール提供を認めている認証機関が多く、ムスリムの中でも敬虔な教徒は中途半端な認証に信用を置いていない。日本における一つ(または複数)の認証機関に対する不信感は、日本への認証制度全体の不信感につながっているのだ。このため、せっかく日本にいるにもかかわらずホテルの自室で質素な食事をして済ませてしまう人もいるという。

観光庁が2010年から「訪日外国人消費動向調査」と言う面白い統計を取り始めている。この中で、各国籍の訪日客が旅行中にどのような分野で消費したのか、パーセンテージで示している。screenshot-by-nimbus

イスラム教の比率が高いインドネシア人(国民の88.1%)は、旅行中の消費額のうち飲食に費やした費用が14.3%と調査対象の中で最も低い(全国籍平均は21.4%)。マレーシアの20.4%を見ると、一概にハラル認証がないせいであるとは言い切れないが、買い物には多額の消費をするインドネシア人が何故日本での飲食にはお金をかけないのか。観光庁には是非追跡調査をムスリム対象に実施してもらいたい。

国内レストランのなかでも認証を取るところは増えてきているが、このような層を意識してのことだろう。安心できる食環境が約束されて、初めて訪日を検討する人も少なく無いだろう。乱立する認証機関が不必要な混乱を招く現状は、旅行客にとっても飲食業界にとっても好ましくない。正しい情報開示、そして認証機関との連携によって不安感を取り除く必要がある。そのために認証制度が果たす役割は大きいだろう。

どの程度の役割を政府が果たすべきかは、大きく意見がわかれるところだろう。しかし企業や訪日観光客に安心を提供するためには、認証制度の調整役が必要である。せめて政府が中心になって議論を進めていって欲しいところだ。