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ビッグビジネスとなるハラール市場

スウォンジー郊外の工業地区で小さな革命が進んでいる。家族経営のLewis Pies社は80年以上に渡ってビーフ・パイやオニオン・パイ、ソーセージ・ロールなどイギリス伝統料理を作ってきたが、今後10年間でビジネスの3分の1は、需要増加が見込まれるハラール製品に向けることに決めたのだ。社長のWilf Lewis氏はハラールこそが未来だと確信している。「ビジネスとして考えれば、狩りのターゲットが決まったと言うところだ。この分野の成長が一番速い。今後10年間で生産の大半をハラール製品が占めると断言できるポイントまで来ている。」

Lewis Piesの決断は、ムスリム人口需要による市場の拡大を反映していると言えるだろう。2000年前後に生まれたムスリムの購買力、そして彼らの信仰と消費者意識がこのトレンドを作っている。

16億人にのぼるムスリムが6月25日から始まるイード・アル・フィトル(ラマダーン明けのお祭り)を祝おうとしているが、最近のデータによると世界中のハラール食料・飲料市場は2030年までに1.5兆ポンドにも及ぶと予想されている。これだけでなく、医薬品、観光、金融、衣料品、化粧品などのイスラム経済の分野も成長が確定的だ。

ハラール食品はムスリム消費市場だけにとどまらず、近年の食品原産地偽装スキャンダルなどの影響により、ムスリム以外の市場にも広がる可能性がある、と専門家は言う。ハラール市場専門のリサーチを行うImarat Consultant社のストラテジストAbdalhamid Evans氏は「デザインやマーケティングが上手くできれば、ハラール製品は一般市場にも魅力をアピールできる。ハラールはニッチ市場ではなく、主流派になろうとしている」と言う。

ハラール肉とはイスラムの形式に従って屠殺された肉のことを指し、屠殺時点まで健康に生きていて、屠殺には手を使い、血抜きが適切にされなければいけない。ハラール肉となる家畜の80%以上は屠殺前に電気ショックが与えられるが、イギリス国内では法的に必要とされているわけではない。RSPCA(王立動物虐待防止協会)、イギリス獣医協会、家畜保護委員会、動物権利擁護団体などは、電気ショックを与えずに屠殺することで、家畜に対し必要以上に苦痛を与えていると主張している。

Lewis Piesはハラール監督団体から認証を受け、ハラール原材料を調達し、ムスリム消費者を工場に招いてさまざまな製品の生産ラインを見せて信頼を勝ち取るなど、さまざまな努力を費やしてきた。

同社のハラールに向けた取り組みは、刑務所にケータリングを行う業者から、ムスリム受刑者向けのハラール製品について問い合わせが来たことから始まった。当時のハラール製品は会社売上の5%を占めるに過ぎなかった。しかし数年後には、すべての生産ラインから豚肉製品を排除するに至った。「難しい決断だった。ポークパイやポークソーセージ・ロールの販売を止めることで、市場が狭くなることになったからだ。チキン、ハム、ニラネギを使ったパイを注文する業者もいたが、断るしかなかった。でも、チキン、ニラネギのパイなら美味しいものを提供できる」とルイス氏は言う。

イスラムに対し拒否を示す人々や動物愛護活動家からの反発にも対応しなければならなかった。「以前にはクレームに対して問題の詳細や背景を明らかにするために、2時間かけて説明するメールを書いたこともあったが、返ってきた返信は全く見当違いのものだった。だから、理性的な議論を求めているわけではない人を相手にすることは止めたんだ」と言う。

今ではハラールはこの会社の売上の35%を占め、卸売業者、小売店、OEMブランドなどに向けて販売をしており、成長の軸となっている。最も需要が大きいのは、伝統的なイギリス料理だ。「ハラール製品というと、何でもかんでもカレーにしなければいけないという思い込みがあるようだが、実際に消費者が求めているのは、ビーフソーセージ・ロールやミートパイなどだ」とLewis氏は話す。今では2つのサッカーチームから、ハラールパイの生産についてアプローチを受けている。

伝統的なイギリス料理に対するムスリムの需要に目をつけた30歳の起業家Shazia Saleemは、自身が立ち上げたieatのブランドでインスタント用のハラール食を販売することにした。彼女はムスリムのライフスタイルをテーマにした会議で、「7歳の時からシェパードパイを食べたいと思っていたのだけど、ハラールで作れる人がいなかったので、自分で作ることにした」と話している。

「冷蔵食品の分野ではハラール食品が求められてムスリムの購入が増えており、2013年と比べて売上が6倍になっている」と言う。今では複数の大手スーパーチェーン店で彼女の製品が並んでいる。

ハラール食品の需要増は、Halal Dining Clubのようなレストランのレビューや、Halal Girl About Townのようなブログにも現れている。

スウォンジーでは、工場の方針を変えたことで、経営する一家の未来にまで影響を与えたようだ。「ソフトウェア会社を経営していた5年前に、ハラールパイを売ることになると言ったら信じることすらできなかっただろう。しかし今は疑念も払拭し、いい友人もできた。素晴らしい歓迎を受けてきた」とLewis氏は言う。

The Guardian