ハラル・ツーリズムの台頭
フロリダ州オーランドにある不動産賃貸会社では、「ハラルのバケーション ホーム」を提供している。この住宅には、カーテン付きのプールデッキ、礼拝用の部屋、そしてコーランが用意されている。
イギリスのとある会社は、ロンドンとドバイでハラル肉を提供しているレストランをリストアップするアプリを開発している。一方、ボストンに本拠地を置く開発者のアプリは、90の都市の観光案内情報とともに、現地の礼拝時間と、毎日の礼拝のためのメッカの方向を示すコンパス機能がついている。
「ハラル・ツーリズム」は、かつてはとてもニッチな市場だと考えられていた。年間数十億ドルの収益をあげるようなものは、イスラム教徒の旅行者によるメッカへの巡礼以外にはないと考えられていたからである。
しかし現在、特に裕福なアラブの湾岸諸国からの旅行者に向けてハラル・ツーリズム市場を広げ、世界中のイスラム教徒の旅行者にサービスを提供しようという動きが観光産業から生まれてきている。
旅行テクノロジー企業Amadeusの2014年の研究によると、サウジアラビア、クウェート、カタール、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーンからの旅行者は今年640億ドルを旅行に使っており、この数字は2030年までに2160億ドルまで増加するだろうと予想している。研究では、これらの国々からの旅行者は、約9,900ドルを湾岸諸国以外の国への旅行で使い、中でもアラブ首長国連邦からの旅行者は10,400ドルを使うということがわかった。
コンサルタント会社Dinar Standardの古参社員であるReem El Shafaki氏は、次のように語る。「ダラスとニューヨークのリッツ・カールトンホテルは、どうすればイスラム教徒の宿泊客により良いサービスを提供できるのかを示しているいい例だ。要望に応じてハラル肉を提供し、中東出身の料理人を雇い、室内を男女別に区切れる部屋を提供している。また、接客スタッフには、イスラム教の文化規範についてしっかりと教育を行っている。」
Dinar Standardは、イスラム教徒の宿泊客の接遇について、マリオットホテルのスタッフにオンラインセミナーを行った。しかしEl Shafaki氏は、ホスピタリティ産業はイスラム教徒とそうでない顧客を区別せずに、商品を売ることもできるという。
アブダビでは最近、ハラル・ツーリズムという新しい市場に関心を持つ人々が意見交換をするための会議が開かれていたが、El Shafakiはその会議において「いくつかのホテルと観光地では、「family friendly」という用語を用いている」と発言した。
イスラム教の定義では、ハラルとは許されたものという意味である。典型的に厳格なイスラム教徒はアルコールだけでなく、ビーチやナイトクラブのような過度に肌を露出する場を避ける。イスラム教の慎み深い服装規範に従う女性が水泳をするのは簡単なことではない。このような人たちにとって、男女別のビーチやプールを提供できるリゾートは、利点を持つことになる。
フロリダのReality InvestmentのRoberto Silva氏によると、自社の賃貸物件のうちの50件を選び、プールの周りにカーテンを取り付けるなどの少しの変更を加えたという。しばしばオーランドに旅行に来て、大家族で数週間をディズニーワールドやほかの遊園地の近くで泊まりたがる、多くの湾岸諸国のアラブ人客がより快適に過ごせるようにするためである。
同氏はアブダビの世界ハラル旅行サミット・展示会でこのように語った。「私はこの取組を各地に広げたい。多くの人がロサンゼルスやサンディエゴ、そしてニューヨークへ行く。」
トルコの南海岸沿いでは、女性向けの広大なプライベートビーチとプールを所有している総合リゾートのホテルがいくつか点在している。なかには海の中に建物を建てたリゾートさえある。船に乗った人々から見られるのを避けるためである。マレーシアもまた、アブダビでの会議において、パンフレットの中で自国を「ムスリムフレンドリーなマレーシア」として宣伝することで、積極的により多くのイスラム教徒の旅行客を誘致しようとしている。
Halal Booking というウェブサイトの社長であるElnur Seyidliは次のように語る。「私の会社はすでに、75の国の43,000人の顧客にサービスを提供している。このウェブサイトは、アルコールを提供しないホテルや、ホテル内のいくつかのレストランでしかアルコールを提供しないホテルを探したいという人のために、その条件でフィルターして検索することを可能にしている。肉については、イスラム教の規則に基づいて屠殺されたものでなくてはならないのだが、このウェブサイトでは、すべてハラル肉を提供している場所か、リクエストに応じてハラル肉を食べることができる場所かなどを指定して調べることもできる。」
サミットにおいて、Seyidli 氏は聴衆に向けて言った。「それは、どのくらい許容するかによります。私の意見では、100パーセントハラルだといえるものはありません。そして、100パーセントハラルでないといえるものもまた、ありません。個人旅行者でさえ、旅行ごとに要求は変わるかもしれません。」
Halal Gemsは、旅行中のShawarma(グリル肉)のラップサンドに興味がない人たちに向けて、ロンドンとドバイのハラルな食事を提供するレストランのリストを提供するアプリだ。このアプリの開発者であるZohra Khakuは、「アプリに掲載されるレストランから年間利用料をもらうことで収益を上げました。しかし、ドバイではハラルフードを見つけることはさほど難しくないが、「curated halal dining」というような、最高のグルメオプションを探すことが難しいのです」と語る。
Ifran Ahmedは、ムスリム市場に乗り込んだもう一人のアプリ開発者だ。彼のアプリはIrhalと呼ばれ、モスクとハラル食を出すレストランを地図に表示出来るだけでなく、観光とショッピングができる場所も見ることができる。このアプリには、礼拝をする人がメッカの方角を見つけるためのコンパスもついている。このアプリは英語とアラビア語で使用することができ、25,000回以上もダウンロードされている。Ahmed氏によると、世界中の90の都市を網羅しており、アムステルダム、アテネ、北京、バンコク、そしてロサンゼルスやシカゴ、ヒューストン、ニューヨーク、ワシントンDCなどアメリカの都市の情報も得ることができる。
このアイデアは、彼自身がヨーロッパでハラル食品を探すのに苦労した体験と、イスラム教徒の礼拝の時間に必要な、日の出・日の入りの時刻がわからなかった体験をもとに生まれた。より多くの都市でアプリが使えるようにするために、現在彼は約100万ドルの投資を求めている。
「スタートアップ起業にとって最も大きな課題のひとつは、自力で資金を準備することだ。我々はこれまでのところ自力でプロジェクト全体に資金を供給できている」とAhmed氏は語る。