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日本でハラールツーリズム、イスラム教徒の観光客取り込み狙う

空港の祈とう室や国産の絹で作られたヒジャブ(頭髪を覆うスカーフ)、さらにはハラール認証を受けた食品――。国民の均質性が高く、イスラム教信者の数がわずか10万人前後の日本で、2020年までに外国人観光客を倍増させるという目標を達成するため、なじみの薄いイスラム教徒の旅行客を取り込む試みが始まっている。

 東京で開催された最近の「ハラール・ツーリズム」のセミナーで、マレーシアの食品会社「ブラヒム」のトップ、ダトゥク・イブラヒム・ハジ・アフマド・バダウィ氏はAFPに対し、「イスラム教徒の旅行者にとって、日本はまだ快適な旅行先とはいえない。(日本)政府もこれに気付いたようだ」と述べた。

 同様のセミナーは昨年、国内20か所で催され、日本を訪れるイスラム教徒にどのように向き合うべきかを学ぶため、ホテルやレストランの経営者たちが招待された。

 また大阪商工会議所は、イスラム教で禁忌とされるアルコール飲料や豚肉など、イスラム教徒が口にして良いものと悪いものを例示した5000部のガイドブックを配布した。

 2013年に日本のビザ取得要件が緩和されたマレーシアやタイ、そしてまもなく緩和予定のインドネシアなどのイスラム教徒が数多く暮らす東南アジア諸国では、日本への観光旅行が盛んに宣伝されている。

 2013年に日本を訪れたインドネシア人観光客の数は前年に比べて37%増え、マレーシア人観光客も21%増となった。

 ブラヒム社はハラール食を取り入れた機内食の提供を念頭に、全日空と既に業務提携している。イスラム教徒の宿泊客を取り込みたい有名ホテルの多くも、バダウィ氏にアドバイスを求めて訪ねてくるという。

 バダウィ氏によると、日本は取り組みの開始が遅かったが、今後の見通しははっきりしているという。旅行好きなイスラム教徒は日本を訪れるようになり、最終的に6000億ドル(約60兆円)規模とされるイスラム教徒の旅行関連市場で、日本はより大きな分け前にありつくことができるようになるだろうと考えている。

 徐々にではあるものの、こうした取り組みは全国各地で見られるようになってきている。関西国際空港など主要空港に祈とう室が設置されているほか、あるテレビ報道によると、一部空港ではイスラム教徒のお土産向けに国産の絹で作られたヒジャブが販売されているという。

■ハラール認証を受けた焼き肉も…アルコールは無し

 旅行者だけでなく、長期滞在者に対しても同じような試みが行われている。イスラム教国からの留学生を増やすべく、全国19の大学では食堂でハラール食を取り入れたメニューを提供している。

 さらに「本物の日本食を味わいたいがハラールではないと駄目…」というイスラム教徒も楽しめる焼き肉店が東京には存在する。店主を務めるスリランカ人のカトリック教徒ロジャー・バーナード・ディアスさんは、宗教ではなくビジネスの面で「宗旨変え」をして店を始めた。

 ディアスさんは、ハラール食のメニューを取りそろえる店に衣替えすることには何の不安もなかったといい、それが東南アジアのみならず湾岸諸国からもお客が来る結果につながったと話す。

 ただ、食材を調達するのはそう簡単ではないようだ。ディアスさんは専用の冷蔵庫からハラール認証を受けたブラジル産の鶏肉を取り出しながら、「全ての材料をそろえることは大変だ」と述べた。

 日本に2つしかないハラール認証機関の一つで、2010年に創設されたNPO法人「日本ハラール協会)」の理事長、ヒンド・レモン・史視氏はAFPの取材に対し、ハラール関連市場は盛況だと話す。

 同氏の説明によれば、世界ハラール評議会のアソシエートメンバーである同協会は、2012年以来40社にハラールの認証書を発行し、2020年に東京でのオリンピック開催が決定したことにより、その数は今年大幅に増える見込みだという。

 一方、たとえイスラム教徒の旅行者たちが日本で食事をしたいと思わなくても、ハラール認証を受けた醤油や秋田産のコメなど、イスラム圏へ農産物を輸出しようと試みる業者も存在する。

 ただ、イスラム教徒向けにサービスを提供するビジネスは、その市場が十分拡大するまで、その他の客に対する配慮もしばらくは続ける必要があるという。

 ディアスさんが経営する焼き肉店では、客の半分がイスラム教徒だ。それでも他の常連客の要求にもしっかりと対応することは欠かせないと話す。「アルコール飲料を販売しないここでの商売は大変だよ」

AFP BB NEWS