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横浜在住ムスリムとの連携で情報発信力アップ

 インバウンド(訪日外国人旅行)の誘致に積極的に取り組んでいる横浜市が、ムスリム受け入れに本格的に取り組み始めたのは2013年のこと。7月には観光庁が推進するビジット・ジャパン地方連携事業の一環として、タイ、シンガポール、マレーシアの旅行会社とメディアから7名を招き、視察ツアーが行われた。マレーシアからは、メディアと旅行会社合わせて3名のムスリムが参加。横浜市では初めてのムスリム誘客事業となった。

 一行は4泊5日の日程で来日し、東京、鎌倉、箱根を経て最後の2泊3日を横浜で滞在。ランドマークタワーやカップヌードルミュージアム、横浜・八景島シーパラダイスなどを訪れ、三渓園での抹茶体験も楽しんだ。

 食事は、市内の和食やフランス料理店などの協力を得て、豚やアルコールを使わないメニューを提供した。マレーシアの参加者向けにはモスク訪問とハラル食材を使用したインド料理レストランを組み合わせるなど、ムスリムとノンムスリムで一部行程を分ける工夫も行った。「最も懸念されていた食事についても問題なく、滞在を楽しんでもらえたようだ」(横浜市文化観光局観光振興課の柳沢貴之担当係長)。今年9月にも、同様の視察ツアーの実施を予定している。

留学生がSNSで横浜のおすすめを発信

 2013年、観光庁は訪日外国人旅行者受け入れの重点課題の一つに「ムスリム旅行者向けの受入環境整備」を挙げ、戦略拠点として4地域を選出している。札幌、登別、神戸と並び、その一つに選ばれたのが横浜だった。

 横浜の事業テーマは「ムスリム居住者等と連携したムスリム・フレンドリーな施設・ サービス等の情報収集と発信」。これを受けて同年12月、横浜市は外国人旅行者向けの観光情報サイト「Yokohama Visitors’ Guide」内にムスリム旅行者向けのページを新設した。

 市内在住のムスリムにヒアリングを行い、ムスリムに配慮したメニューやサービスがあるレストラン、ハラル食材が買える店などをこのウェブページでは紹介。レストランはアラビア料理、トルコ料理などのほか、インバウンド誘致に積極的なことで知られる新横浜ラーメン博物館、昨年7月の視察ツアーで利用したレストランも紹介されている。

 現在の掲載軒数は10軒と数はまだ少ないが、「先進的な取り組みをしている店を紹介することで、少しずつ裾野を広げていきたい」(柳沢担当係長)。

ムスリムが知りたいレストランデータを満載

 注目したいのは、レストランデータにきめ細かいチェック表が添えられていることだ。「英語メニューがある」「ハラルミートを使ったメニューがある」「ムスリムのシェフがいる」「礼拝スペースがある」など22項目が並び、該当するものには○印が付いている。ムスリムにとって知りたい情報を正確に伝えるという点で、参考になる取り組みだ。

 ウェブページの新設と合わせ、試験的に2013年12月から3月までの4カ月間にわたり、ムスリム向けの横浜観光情報を紹介するFacebookページも開設した。情報発信を行ったのは、「ムスリムアドバイザー」と呼ばれる市内在住のムスリム5名。「いずれもインドネシアの方で、横浜市の国際学生会館という施設に滞在している留学生にお願いした」(柳沢係長)。

 発信された情報はおすすめのレストランやレジャー施設、おすすめのお土産菓子など。例えば、横浜銘菓として有名な「ハーバー」は、豚由来の成分やアルコールが入っていないので、ムスリムも安心して食べられるといった情報もあった。

 ページ閲覧者の3割が海外在住者で、そのほとんどがマレーシアとインドネシアから。Facebook上でアンケートを行ったところ、「ムスリムから発信される情報は信頼できる」という声が多かったという。

 「今回は提供できる情報が少なかったので期間限定のページ開設となったが、SNSは東南アジアの人にもかなり活用されており、ツールとして有望なことが分かった。ムスリム観光客が増え、サービスも広がってくれば、また新たな形でSNSを使った情報発信を行いたい」(柳沢担当係長)

礼拝用マットとコンパスを事業者に配布

 2014年6月からは、希望する市内の宿泊施設や飲食店、観光施設に対して、ムスリムが礼拝で使うマットとキブラコンパス(礼拝を行うメッカの方向を示すコンパス)の提供を行っている。各事業者はムスリム旅行者から申し出があれば、無償で貸し出す。

 コンベンションセンターのパシフィコ横浜と横浜・八景島シーパラダイス、ホテルが6軒、飲食施設が2軒の計10施設30セットへの設置が既に決まっている。「コンパスはスマートフォンのアプリで対応できたり、自分でマットを持参する方も多いが、こうしたものが置いてあるのは積極的にもてなそうというサインであり、一つの目安になるという声をムスリムから聞いた」と柳沢担当係長は語る。

 今後の取り組みとして、横浜市ではムスリム観光客が安心して購入できる土産物の情報提供、食事ができる環境整備の2点を挙げている。

 土産物は、アルコールや豚由来のものが含まれていないかどうかムスリムが判断できるよう、英語による成分表示の奨励を目指す。食事についてはムスリムが利用できるメニューを提供する店の数とバリエーションをより増やしたいとして、商品開発や宣伝への助成も行う意向だ。

 「手探りではあるが、市内の事業者と協力しながら様々な取り組みを行い、ムスリム向けサービスをさらに広げていきたい」(柳沢担当係長)

刺身&海鮮鍋セットが外国人ツアー客に好評の
居酒屋・レストランチェーン

 「甘太郎」「北海道」などの居酒屋やレストランを全国に展開し、横浜市に本社を置くコロワイド東日本。横浜市が提供する礼拝用マットとコンパスの設置を希望した事業者の一つだ。

 同社は2008年から、インバウンドのツアー客への対応を開始した。日本の旅行会社を通じ、香港や韓国などの旅行会社からツアー客向けの昼・夕食の提供依頼を受け、当初は個々の店舗で対応していたが、受注数や国・地域が増えてきたため、2012年に外商部を設立。同部で旅行会社からの受注を集約し、各店舗へ連絡する形をとるようになった。

 昨年秋から、インドネシアとマレーシアの旅行会社からの受注が急増した。2013年のインバウンドツアー客の取り扱いは約10万人、その1割弱をこの2カ国が占める。「『このお客様に出す料理には豚肉を使わないでほしい』という依頼を受けたことをきっかけに、ムスリムの食習慣を初めて知った。その後、弊社も勉強して旅行会社と相談し、ポークフリーのメニューを開発して提供するようになった」と外商部インバウンド課の金子泰士課長は語る。昼は1500円以内、夜は2000円以内という1人当たりの予算は国・地域を問わずほぼ共通という。

 店舗別に見ると、インバウンドツアー客の扱いが最も多いのは海鮮料理を中心とした「北海道」で、全体の7割を占める。アジアの人々にとって海鮮が人気であることに加え、憧れのブランド観光地を冠した店名も魅力の一つと考えられる。インドネシアやマレーシアのツアー客に最も人気が高いのが、カニの入った海鮮鍋に刺身などをセットしたポークフリーメニューだ。「カニ、エビ、貝類は非常に好まれる。生ものがダメな人は刺身を鍋の具にするなど、自分の好みに合わせて食べていただけるので、鍋と刺身のセットは評判がいい」(金子課長)。

 ちなみにインドネシアの人はサーモンの刺身が好きで、マグロよりもサーモンを増やしてほしいという依頼をよく受ける。わさびは刺身以外のメニューにもたくさん使うので、別盛りで多めに用意するほか、七味唐辛子も好まれる。ガイドが自国のチリソースを持参するケースもあるという。ツアー客の夕食時間は、一般客で混み合う時間帯より早い18時頃からということもあり、アルコールを提供する居酒屋という業態に対し、利用客からのクレームは今のところないという。

日経ビジネス

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