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迎える 「外国人活用」の足元(5)ムスリム 「生活と一体」理解を

 両親がパキスタン出身の中学1年生、アズラン・カーン君(12)は、日本生活が11年に及ぶ。

 「学校で不便を感じたことはない」。ただ以前に通った横浜の小学校では、給食の献立表を事前にチェックすることが欠かせなかった。

 もちろん豚肉は食べられない。パンは原料のショートニングが動物油脂であれば禁じられる。チーズは種類によってOK-。イスラム教の戒律で禁じられた食がメニューに含まれている場合は、同種の食品で合法(ハラル)のものを持参するようにしていた。

 日本に暮らすイスラム教徒(ムスリム)にとって、スーパーに並ぶ食肉は豚に限らず鶏や牛、羊でもまず口にできない。祈りを唱えながらムスリムの手で血を抜いたものでなければならない、と戒律で定められているからだ。

 県内在住のあるムスリムは「以前にやむを得ずハンバーガー店で食事したこともあるが、つらかった」と明かす。イスラムの思想では、人間の体は神からの借り物で、神の教えに従わない食事は「罪」となる。ハラル食の有無は、自己を律する生き方そのものに直結する問題でもある。

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 世界のイスラム人口は16億人で、世界人口の4人に1人の計算だ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの予測では、2030年には22億人に達するとみられる。このうちインドネシアやマレーシア、インドなど経済発展が著しいアジア太平洋地域では13億人を占めるとされる。「イスラムは生活そのもの」というムスリムが暮らしやすい環境を整えることは、政府が成長戦略で掲げる「外国人材の活用」に欠かせない対応だ。

 インターネットなどの発達で情報共有は以前に比べ格段にしやすくなった。日本社会の配慮も広がり、東京工業大すずかけ台キャンパス(横浜市緑区)のように学生食堂にイスラム圏の留学生向けの「ハラル推奨メニュー」を提供しはじめた大学もある。

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 「日本での生活は、難しくなくなっている」と話すのは、横浜市都筑区のイスラム礼拝所(モスク)「ジャーメ・マスジド横浜」運営委員のアルタフ・ガファルさん(54)だ。モスクはムスリム共同体の重要な生活拠点で、多くの情報が集まる。さらにインターネットの進展で情報共有はたやすくなり、生活上の困りごとも相談しやすくなった。

 だが、横浜市港北区で食品輸入会社を営むモハメド・フレイシさん(44)は指摘する。「過激派による攻撃など、日本では欧米の視点ばかりでニュースが取り上げられており、イスラムのイメージはよくないのではないか」。母国スリランカでは、少数派のムスリムは弱者の立場に置かれていることも、あまり知られてはいない。

 ガファルさんもフレイシさんも、イスラムの根源に対する理解が、日本社会に深まることを願っている。

神奈川新聞