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イスラム向け食事、認証乱立で混乱 観光庁が実態調査へ

 イスラム圏からの観光客誘致が注目される中、戒律に則した食事提供ができることを示す「ハラル認証」をめぐって日本国内で混乱が生じている。本来の厳格な基準より緩やかな「ローカル認証」が各地に増えているためで、観光庁は近く実態調査に乗り出す。ただ「政教分離」の壁もあって、どこまで踏み込めるかは不透明だ。京都では認証機関に頼らず、ムスリムを迎え入れる試みが広がっている。

 ハラル認証に国際的な統一基準はない。国や地域ごとに宗教団体やNPO法人などが審査し、認証を与えているのが現状だ。

 そうした中、唯一、政府による“お墨付き”を与えているのがマレーシアの認証機関「JAKIM(ジャキム)」で、国際的に信頼性が高いとされる。日本では、NPO法人「日本ハラール協会」(大阪市)と宗教法人「日本ムスリム協会」(東京都)が、JAKIMの承認を受けて認証を行っている。

 JAKIMの基準では「食材の保管や輸送は豚肉などの許されない食材と物理的に隔離して行う」「台所や調理器具も区別する」などと定めており、極めて厳格だ。管理が農場から食卓にまで及ぶため、日本の一般の飲食店にとってはハードルが高いとの声もある。

 そこで豚肉や豚由来の食品、アルコールは使っていないが、流通段階での分離までは考慮しない場合を「ムスリム・フレンドリー」「ムスリム・ウエルカム」などとして認証する動きが広がっている。飲食店側は導入しやすいが、ムスリムには戒律に沿った食事かどうか判断しづらい側面もある。

 JAKIMほどの厳格さを求めない、ローカルな認証機関は日本国内に100前後あるとされ、中には審査から認証までを1人で行う所もあるという。日本ハラール協会のレモン史視(ひとみ)理事長(36)は「そもそもハラルに『厳格』も『緩やか』もなく、個人が受け入れるかどうかの問題。いろんな基準をつくるのは、日本の認証制度全体の信頼低下につながる可能性もある」と現状に批判的だ。

 このため、観光庁は認証機関の実態調査に乗り出すことを決め、来年3月までに認証団体の数や認証の仕組みについて調べる方針だ。ただ、行政機関には「政教分離」の原則があるため、「認証制度の是非を言う立場にはない」(国際観光課外客誘致室)と、あくまでも「観光環境を改善するための情報収集」にとどめるという。

 レモン理事長は「認証にこだわるのではなく、まずは調理師やスタッフのハラルに対する理解を深めてもらうことが大切ではないか」と提案する。

 ■ハラル 「イスラム法で許された」食べ物や行為を意味する。豚肉やアルコールを口にしないなどが代表例。国や地域によってどの程度厳格に守るかは異なる。旅行時には現地の文化に合わせて柔軟に対応するムスリムもいる。

京都新聞