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ハラルはASEAN市場へのパスポート 九州で認証進む

 イスラム教徒(ムスリム)の観光客を取り込もうと、イスラム教の戒律に則った「ハラル食品」の情報提供や礼拝室などの環境整備が、九州の観光拠点で進んでいる。九州から直行便が飛ぶ東南アジアには、世界最大のイスラム教国とされるインドネシアやマレーシアがあり、経済成長も著しい。ハラル食品の開発は、九州への観光客誘致だけでなく、ASEAN(東南アジア諸国連合)市場進出へのパスポートともなる。

 連日、大勢の観光客が行き来する福岡空港国際線ターミナル。約12平方メートルの小さな部屋で、飛行機を待つムスリムが聖地・メッカに向かい礼拝する。

 礼拝室には体を清めるための水場やメッカの方位も示しており、1日5回の礼拝が欠かせないムスリムが利用しやすいよう考慮した。福岡空港ビルは将来を見据え、今年4月に設置した。同様の礼拝室は鹿児島空港にもある。

 世界経済に占めるイスラム市場の存在感は、徐々に高まっている。

 東南アジアをみると、人口2億4千万人の9割をムスリムが占めるインドネシアや、2900万人のマレーシアなど複数のイスラム教国がある。ASEANの総人口6億人のうち、ムスリムは約4割を占める。

 経済発展も著しい。インドネシアの国民1人あたりGDPは3011ドル(2012年、国際通貨基金)で、前年比7・6%の伸びを示した。マレーシアの1人あたりGDPも1万ドル前後となり、海外旅行を楽しむ富裕層が膨らむ。

 ◆増加する入国者

 「2030年に訪日外国人3千万人」の目標を掲げる日本政府も、東南アジアからの誘客に本腰を入れる。昨年7月以降、マレーシアやタイ、インドネシアなど5カ国でビザの緩和・免除が始まった。

 東南アジア観光客の視線は九州にも注がれる。

 今年1~5月の間に、マレーシアから九州への入国者は2753人で前年同期の2倍に達した。そのほか、インドネシア1594人(前年同期比33%増)▽タイ1万2430人(同27%増)▽ベトナム3387人(同25%増)-など軒並み増加した。

 九州にも、ムスリム観光客が訪れる時代となった。

 ◆認証がネックに

 観光客誘致の上で、最大の課題がイスラム教の戒律だ。特に食事と礼拝という「信仰に沿った生活を維持しつつ旅行が可能かどうか」ということが、旅先を選ぶ上で重要になるという。

 イスラム対応食の目安となるのが、ムスリムが食べてもよい食品であることを示す「ハラル認証」の取得だ。

 だが、認証を受けるには、宗教法人日本ムスリム協会などに英文書類の提出を求められるうえ、1つの製品につき、有効期間1年間の証明書(5万円)が必要だ。さらに製造ラインの視察を受けるなど、別の経費も発生する。

 こうした手間を敬遠し、ハラル食品の食材を卸す会社は、九州では10社前後にとどまる。

 ハラル食品の普及が遅れ気味な中で、行政が民間を後押しする。

 福岡市は3月、ガイドブック「ムスリム フレンドリー」を発行した。市内在住のムスリムが経営する飲食店や、市内在住者が日常的に利用する飲食店など、計22店舗を英文で掲載している。

 「同胞が普段、食べたり買い物している店なら、福岡を何も知らない観光客にも、信頼して利用してもらえる」(高島宗一郎市長)というわけだ。自治体としては、全国初の取り組みという。

 福岡市はこの冊子の情報を、今年中に市の観光サイトの英語版にも掲載する。ムスリム観光客に精通した旅行代理店に委託し、観光客増加に向けた課題をまとめた報告書も今年度中に作成し、市内の飲食店や宿泊施設などへのアドバイスを実施するという。

 熊本市は4月、マレーシア政府と覚書を結んだ。講師を派遣してもらい、ムスリムに対応した商品の製造や接待方法などについてセミナーを開催したほか、市内の飲食店で提供するハラル食品のガイドラインも作る。

 JR九州の青柳俊彦社長も、豪華寝台列車「ななつ星in九州」の食事について「乗客1人1人の要望を受け、例えばラードを使わないなどの配慮をしたい。今後、九州でもハラル食品を提供できる飲食店が広がれば、本格的なイスラム対応の食事の導入を検討したい」と語った。

 福岡市中央区でカレー店「ハイダル」を営むモハメド・ズルフィカル・ハイダル氏(43)=バングラディッシュ出身、イスラム教徒=は「ムスリムが安心して食べられる食堂の情報を広く発信することが肝心です。ただ、イスラム教徒も海外旅行中に完璧を求めることは無理だとも分かっています。提供側もできる限りのことをすればよいのではないでしょうか」と語った。

産経ニュース

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