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コーシャとハラル:健康志向の次のトレンド

アメリカ最大のイスラム教徒とユダヤ教徒を抱えるニューヨークでは、さまざまな人種や宗教、民族の人びとがハラル(イスラム教徒向けの食べ物)やコーシャ(ユダヤ教徒向けの食べ物)の食材を求めて地元の店に並んでいる風景をよく目にする。

しかし最近ではイスラムやユダヤの認証を受けた食べ物を求めているのは、特別なニューヨーク市民だけではなくなっている。コーシャとハラルの製品はこれまでターゲットとしていた小さな市場だけにとどまらず、安全で倫理的な作られ方をした食べ物を求める多数派の人びとまでが目を向け始めるようになったのである。

「エスニック料理はとても人気が出てきている。現代の人びとは体に入れるものに対して向ける関心が強くなってきているのだろう」とコーシャ料理やスープ、ワインを販売するManischewitz社CEOのMark Weinsten氏は言う。Manischewits社はプライベート・エクイティ会社ベインキャピタルの関連会社Sankaty Advisorsに買収され、コーシャ以外の売上も伸ばそうと計画している。

現在顧客のうちどれ位がコーシャ食品を求めて購入しているのかについては正確なデータが無いのだが、同社製品のうち70%はコーシャ製品のセクションで販売されている。Weinsten氏は今後コーシャに興味がある人やユダヤ教徒以外にもアピールするため、新製品の販売を考えている他、通常製品の棚に置いてもらうためにフィーを払ったり、広告やパーッケージの変更なども視野に入れている。パスオーバー(ユダヤ教の祭り)の時期でなくてもマカロンはデザートとしておいしいものだし、チーズプレートの上にTam-Tamクラッカーがあっても全然おかしくないだろう、とWeinsten氏は言う。

Manischewitz社は100年以上にわたってコーシャ製品を作り続けているが、それ以外にも宗教面に配慮した食品会社のスタートアップも生まれてきており、これらの会社は多数派をどうやって取り込むのかということも念頭においている。「コーシャ料理の迅速な配達」を掲げるGetKosher社はニューヨークで人気が拡大しているスタートアップだが、企業や学校、そしてユダヤ教徒以外にもコーシャ料理を届けることを目標としている。コーシャ料理は通常よりもきちんと管理された環境で調理されているので、健康で安全な食べ物としてマーケティングをしている。

Adnan Durrani氏が2010年に設立したAmerican Halal Companyはもうひとつの成功例である。Durrani氏はすでに食品・飲料業界で3つの事業を立ち上げ、成功に導いている。同社のブランドであるSaffron RoadはスーパーマーケットのWhole Foodsで初めて販売されるようになったが、今ではアメリカ中8000店舗で販売されている。ラザニアからインド風カレー、韓国のビビンバだけでなく、ソースやスープ、ひよこ豆スナックなどの冷凍ハラル食品を提供しており、ニールセン社の調査によると、自然派冷凍食品部門で3位の売上を記録している。

自身も経験なムスリムであるDurrani氏がSaffron Roadを立ち上げた理由は、アメリカのムスリム消費者が比較的裕福になり市場が拡大したにもかかわらず、一般の店舗で提供がされていなかったからである(ワシントンDC近郊で生まれ育った彼の家族は他のムスリム同様、ハラル料理が手にはいらないときはコーシャ料理で代用していた)。しかしSaffron RoadではGMO(遺伝子組み換え食品)やグルテンを含まない食品や、オーガニック食品を数多く提供しており、ムスリム以外の顧客にも対応していることが見て取れる。Durrani氏は同社製品にハラル認証を付けることで、それ以外のラベルを見て購入するような消費者に対しての訴求力も強化されるだろうと考えている。

「すでに我々の顧客の70%はムスリムではない。倫理的な意識が高い消費者なので、それに対する価値を求めているのだろう」と言う。

ただしコーシャ料理であってもハラル料理であっても、必ずしも動物の飼育方法が持続可能なわけではないし、健康、安全、人道的な食品であるとは限らない。どちらかといえば価値観の捉え方のようなものであり、それは実際には個々のメーカーによって変わってくる。

Durrani氏にとってハラルとは単に屠殺方法の基準というだけでなく、家族経営の農場運営や思いやりのある動物の扱いということも含めたものであり、Saffron Roadではハラル法に厳格に記されているものでなく自らの基準として捉えている。副社長のJack Acree氏は、Saffron Roadは本格的な料理や透明性の高い企業のブランドに興味がある若い消費者に対してもアピールできるよう作られていると言う。

Saffron Roadは今後10年程度でアメリカのハラル市場は20億ドルから30億ドル程度にまで成長するだろうと見ている。その一方でLean CuisineやHealthy Choiceなどの昔ながらの健康冷凍食品ブランドは「死のスパイラル」に入っているとDurrani氏は言う。「彼らは若い消費者の購買意欲を刺激するような価値観を提供していない」と話した。

Fast Company

ハラルをよく知るために