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日用品メーカーが新市場開拓へ

日用品メーカーは、新たな市場を発見した。スカーフの下に隠された髪をターゲットにした市場である。

ドイツ消費財メーカーのヘンケルは、スカーフを頭にかぶり通気が悪くなった際に生じる枝毛や頭皮のかゆみ、悪臭などの問題に対し、同社の新製品シャンプーGliss Restore & Refreshが世界最高の製品だと胸を張る。イギリスとオランダに本拠を置くユニリーバもサンシルク・シャンプーで同じ市場に狙いを定めている。しかしこれは始まりに過ぎない。

世界的な日用品メーカーの各社はこれまでシャンプーやデオドラントに西洋的なデザインを施して販売してきたが、現地消費者の嗜好に合わせた製品を販売するという方針に転換し始めたのだ。

P&GはOlayブランドの美白クリームで中東の消費者をつかもうとしている。バイヤスドルフ社のニベアはボディローションSensual Musk製品の宣伝のため、中東地域の女性作家などが書いたラブストーリーを集めたコマーシャルを展開した。

P&Gについで世界第二位の消費財メーカーであるユニリーバは、デオドラント製品のAxeやシャンプーのサンシルクなどベストセラー商品に木の香りや甘い香りをつけ、光沢のあるパッケージを加えたと話している。

これらの商品のターゲットはお金を持った中東の若者である。対照的に、先進国の消費支出が未だに金融危機からの回復途上にあるからだ。

「成長を求めるのであれば、ムスリム市場だろう。」WPPの子会社で、ロンドンのムスリム向けマーケティング会社Ogilvy Noorで副社長のShelina Janmohamedは言う。

マレーシアの貿易団体Halal Industry Developmentの2013年版報告書によると、世界のハラル市場の規模は2.1兆ドルであるという。なかでも日用品市場の成長は早く、およそ9%がハラル対応の化粧品だという。

シャンプーで使われるタンパク質など、一部ブランドは製品の中に豚由来の成分を利用しているが、ハラル化粧品ではそのような成分の利用を禁じている。また、アルコールもイスラム法で禁止されているため含まれていない。

Ogilvy Noor社のJanmohamed氏は20年前のアメリカにおけるヒスパニック系市場と同様、ムスリム市場は現時点では未開拓であるため、主要な日用品メーカーはムスリム消費者に直接訴えかけるような宣伝はまだあまり作っていない。とはいえ、一部ではムスリム向けの宣伝が出てきており、ユニリーバのサンシルクの広告では髪の毛は露出させないという配慮がされている。

ここまでは中小企業が中心となり、少ない市場に特化した製品を販売することで市場の成長を促してきたが、今では世界的な企業が市場の開拓を始め、急速に拡大する需要を取り込もうとしている。ヘンケル社の中東アフリカ事業は2008年以降、会社全体の業績の3倍のスピードで成長した。この地域の2013年の売上は前年比17.6%増で、今年も同様の成長を見込んでいる。

ヘンケル社中東アフリカ業務を担当するAshraf El Afifi氏は、「われわれはもともと比較的小さい業務からこの業界に参入した」と話す。インターネット上では西洋の製品が大きく宣伝され、衛星テレビが人気を得ているが、生活必需品については「トレンドは地域限定のものだ」と言う。

とはいえ、中東アフリカ地域では課題もまだ多い。アラブの春の影響を受けて生じた政治不安のため、計画を建てることが非常に困難になっていると企業幹部は口をそろえる。好まれる商品の傾向も国によって劇的に違ってくる。例えば、エジプトでは消費者が地域特性に配慮した製品を求めているため、ヘンケル社のRestore & Refreshのようなブランドが成功しているが、ベイルートでは西洋ブランドがすでに浸透しているため、同じような成功は望めないのである。

「この国に合わせて作られた製品や、自分のニーズや生活習慣に合った製品のほうが好きです」とカイロの20歳の大学生Salwa Saberは話す。

地元企業との競争も激しくなっている。コピー製品を作っているような企業はコストが圧倒的に低いため、価格を下げてでも販売ができるのである。

カイロ近郊でドラッグストアを運営するAhmed el Amirによると、ヘンケル社が初めてGliss Restore & Refreshブランドを売りだした時、無料でスカーフをつけたため、多くの女性はスカーフを手に入れるためにシャンプーを購入したという。「私の経験では、競争がとても激しいので、新製品に対する関心を長持ちさせることはとても難しいと感じる」とAmir氏は話す。

中国やインド、アフリカは人口が急速に拡大している割には消費者製品の浸透率が低いため多額の投資を集めることができるが、中東はこれに比べると優先順位が低くなる。

中東では売上が伸びているとはいえ、消費者製品メーカーの企業戦略に「大きな影響を与えるには至っていない」と、RBC Capital Markets社のJames Edwards Jones氏は話す

しかし今後の成長が大きく期待できる国もある。例えばサウジアラビアでは美容品や日用品の市場が昨年までの41億ドルから2018年にはおよそ75億ドルに増加するだろうとEuromonitor International社は予測している。

ヘンケル社は消費者の傾向を理解し、新製品マーケティングのスピードを上げるため、最近研究開発機能の一部をドバイに移転した。移転から8ヶ月で、研究開発チームは液体ジェル洗剤を開発し、手洗いをする低所得層消費者向けの洗濯洗剤ブランドPersilの製品として発売することにこぎつけた、Afifi氏は言う。

中東の消費者向けに力を入れはじめたことは、ヘンケル社とそのライバル企業にとって大きな戦略転換を意味する。これまで日用品メーカーはアメリカやヨーロッパの消費者向けに開発した製品であっても、中東の人びとが購入してくれることを前提としていた、と業界関係者は言う。

中東における購買力が高まることによって、それも変わろうとしている。通常、地元向けに作られた製品はコストが低いので、世界の主要な消費者製品メーカーの間で中東消費者争奪戦が激化しているとはいえ、他国で販売されているような類似商品よりも利益幅が大きくなっている。

一部の欧州企業の取締役たちは何が足りないのかということを、この教訓から学んだ。「目を向ければより大きな成果を実現できるような地域があるのだ」とユニリーバの最高経営責任者Paul Polman氏は12月の投資者向け会議で話した。

 The Wall Street Journal