ロシア:イスラム金融の法整備を中央銀行に求める
ロシアの銀行ロビー団体がモスクワの中央銀行に向けて、イスラム金融の促進を提案する書面を提出した。ウクライナ危機による経済制裁を受けているロシアでは、海外からの投資が締め付けられてきている。
ロシア銀行協会(ARB)は先週中央銀行に送付した書面の中で、イスラム金融が大きな効果を経済に与えることが期待でき、中東や東南アジア、イスラム金融が盛んな地域からの投資が増加するだろうと記した。
ウクライナ東部における親ロシア分離派による活動をロシアが支援していると疑われていることから、西側諸国はロシアに対して経済制裁を課している。この結果、一部の大規模なロシアの銀行は西側の資本市場から事実上閉めだされており、2兆ドルとも言われるロシア経済が不況の瀬戸際に立たされている中、イスラム金融への注目が集まっている。
ロビー団体が特に問題視しているのは、ロシアにおいてイスラム金融を管理する法規制が整っていないことだ。このため、シャリア法に準拠したイスラム金融商品を顧客に対して販売することができない。また、イスラム銀行や、このような金融機関を運営する専門家がいないことも問題になっている。
ARBのウェブサイトに公表された書面において、「イスラム金融機関、スクーク(イスラム債)、ムダーラバ(イスラム金融における一般的な契約)などは、ロシアの法律できちんと定義されていない。問題解決のため、特別な連邦法を採択することを提言する」とした。
またARBは、国内イスラム指導者と作業部会を設置して必要な法改正の草案を練るとともに、イスラム金融機関を管理する部署を中央銀行に設置することも同書面内で提案している。
ロシア中央銀行はARBの働きかけに対する回答について、コメントを拒否している。
有望市場
ロシア国内には2000万人のイスラム教徒が在住しているが、ロシアのイスラム金融セクターはいまだ端緒についたばかりである。しかし、専門家は可能性のある市場だという。
ロシア国内でもムスリムが多いタタルスタン共和国のAK Bars Bankは2011年9月、イスラムのムラーバハという仕組みを使って1年ローンで6000万ドルを調達した。ロシア金融機関が初めて国際的なイスラム金融の仕組みを利用した案件である。
2014年1月には11の銀行がシンジケートを組んで組成された1億ドルのローンをAK Bars Bankが調達したのが二件目の例である。
シャリア法研究者であり、マレーシア中央銀行での中央シャリア諮問機関の委員も務めていたAznan Hasan氏によると、海外イスラム銀行は国内法整備を整えればロシアに投資するだろうという。
「十分可能だと思います。ロシアと中央アジアはイスラム記入にとって適しているでしょう。マレーシアの銀行はロシアへの進出に前向きですが、規制枠組みへの手直しは必要であり、政府がこれらの銀行を受け入れる姿勢を示すことが求められるでしょう」とHasan氏は話す。
海外銀行はアメリカや欧州連合(EU)による経済制裁を背景に、ロシア企業への貸出を渋っている。このような中必要とされる資金を供給できるのは、イスラム金融だろう。
アーンスト・アンド・ヤングの調査によると、民間銀行が持つイスラム金融資産は2013年の時点で1.7兆ドルと見られており、そのうちおよそ3分の1は中東のイスラム銀行である。
フィッチ・レーティングスのデータによると、ロシアの銀行セクターが保有する資産残高は6月末の時点で60兆ルーブル(1.7兆ドル)である。
ARBのロビー活動に対して好意的な対応をロシアが見せることになれば、旧ソビエト諸国の経験を踏まえて進めていくことになるだろう。アゼルバイジャンやキルギスタン、カザフスタンなどの旧ソビエト諸国は現在イスラム金融を管理する法律を準備している。
アゼルバイジャン国際銀行でイスラム金融を担当するBehnam Gurbanzada氏は、イスラム金融発展を促進する上で、ロシアは「有望」なプラットフォームだと言う。
「現在ロシアでは資本の供給が滞っているのは明らかだ。ロシア経済は投資と安定した資金提供が必要だ。イスラム金融はロシアにとって新たな選択肢に成り得るだろう」と話した。