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マレーシア国際ハラル展示会“MIHAS2019”で知る、「ハラル市場進出への近道とは」


日本が参加した商談会会場

「これまでで最も有意義かつ優れた展示会だ」とのコメントが内外多くの来場者から寄せられたMIHAS2019(会場:マレーシア国際貿易展示場)が幕を閉じた。開催期間中(4月3日~6日)の来場者は25,000名、出展国44か国、出展企業719社、出展ブース1002、商談会件数(マレーシア貿易開発公社が設定したもの)は1920件だった。16回目を迎える今回、MIHASにビジネス拡大の可能性を求めて参加した国は72か国に及び、うち、ノンムスリム国として新たに参加したのは、パナマ、フィジー、カナダ、アルゼンチンだった。

なお、今回のMIHASは、グローバルハラルサミット2019(GHaS2019)の7つのプログラムのうちの1つとして位置付けられ、期間中はセミナー、コンファレンス、ワークショップイベント等が同時進行で開催された。

MIHASは展示会開催前から始まっていた

MATRADEが設定する商談会にバイヤーとして参加する日本企業
MATRADEが設定する商談会にバイヤーとして参加する日本企業

マレーシア貿易開発公社(MATRADE)が設定する商談会が、4月2日、公社ビルで実施された。10時~17時にかけて行われた商談会件数は、実に1920件に及ぶ。マレーシア企業の海外進出サポートを主な目的とするもので、43か国から200企業がバイヤーとして訪れた。MATRADEによる厳正な審査をクリアした企業が提供するハラル商品・サービスを求め、日本からは10企業が参加した。

G-TERNAKエンタープライズ CEO アルフィン・ビン・イスマイル氏
「日本は大きなポテンシャルを有するマーケット」と商談会に臨むG-TERNAKエンタープライズCEOのアルフィン・ビン・イスマイル氏

当商談会に参加したG-TERNAKエンタープライズは、パーム油、マレー料理用各種ソース、地元の精力剤ハーブの一種であるトンカ・アリ入りコーヒーを販売する。CEOのアルフィン・ビン・イスマイル氏は、「我々にとって、日本は巨大なマーケットと認識している。マレーシアのハラル商品を、商談会等を通じてより一層ノンムスリム国へ紹介していきたい」と抱負を語った。

あらゆる分野のトレンドは変化

備品や機材もハラル製品/おもちゃ、子ども用用品もハラル認証取得
写真左:ハラル商品はF&Bだけではない。備品や機材もハラル製品で、ハラル食品の加工等に欠かせない/写真右:おもちゃ、子供用用品もハラル認証取得

日本で「ハラル」と言えば、食品・飲料(F&B)をイメージする人が多いと思われる。ハラル産業市場において、最も多くの取引が行われているのはF&Bだが、ハラルF&Bの生産に欠かせない各種機材、物流分野、加えてコスメティクス分野、製薬分野でのハラル需要も急激な上昇を見せ、ファッション分野にまで及んでいる。

MIHAS2019では、「モデストファッション」として、28名のファッションデザイナーが出展、ショーを実施した。モデストファッションとは、肌の露出を極力控えた装いで、宗教・信条・文化を超え、世界に広がりを見せている。ニューヨークで開催されたファッションショー、サンフランシスコのデ・ヤング美術館で4か月に渡り開催された“現代ムスリムファッション展示会”等が記憶に新しく、世界のセレブリティの装いにも変化が表れている。

モデストファッションが、ノンムスリムの人々にも影響を与えているという事実は、世界各分野のトレンドが確実に変わってきていることを象徴するものだ。

ハラル認証取得への近道はあるか

JAKIM審査責任者モハド・ナサー・ビン・スライマン氏
JAKIM審査責任者モハド・ナサー・ビン・スライマン氏

現在世界のムスリム人口は18億人にのぼる。この事実を踏まえると、MATRADE CEOのワン・ラティフ・ワン・ムサ氏の、「世界市場においてハラル認証は必須条件ではない。しかし、世界市場開拓の上で大きな付加価値となる」という言葉には大きな説得力がある。
一方、ハラル認証取得は容易ではない。取得を目指すものの、多くの企業が志半ばで頓挫しているのが実情だ。マレーシアのハラル認証機関であるJAKIMは厳しい審査基準を有し、最も信頼に足る認証機関と知られている。JAKIMの調査によると、現在、45か国、計78の認証団体が、独自の基準でハラル認証を発行している。JAKIMの審査責任者であるモハド・ナサー・ビン・スライマン氏は次のように述べる。「1つの加工食品を例に取ると、その食品の形成に至るまでには、数々の原材料、各原材料の生産に関わる機材、食品加工場へ至るまでの物流、食品加工場で用いる各種機材、調理器材など、多くの物・サービスが関わる。完成した加工食品がJAKIM認証を得るには、それら1つ1つがハラルであることが求められる。結果として、認証を得た品は、完全なハラル製品として多くの信頼を得られることとなる」。

日本企業がいかに世界のハラル市場進出を目指し、厳しいハラル認証取得への道を乗り越えるかについて、ワン・ラティフ・ワン・ムサCEOは笑顔で答えた。「マレーシアで良いパートナーを見つけること、またはマレーシアとコラボレーションすることが、一番の近道だ」。

株式会社キュアテックス(日本)、BGRフードサービス(マレーシア)による合弁事業で、MIHAS2019オープニングセレモニーでJAKIMから認証を受けた日本初のセントラルキッチンである「ハラールキッチン楽」が、この言葉を裏付ける良い例と言える。

ムスリムフレンドリーという選択肢

野菜等の原材料もハラル商品
野菜等の原材料もハラル商品

「10年前と比較すると、今の日本は圧倒的にムスリムへの理解と配慮が高まり、祈祷スペースやハラル対応レストランが増えるなど、嬉しい限り。一方、『豚肉とアルコールを使っていなければ、ハラル食』という認識もまだ残っているのも事実」、とマレーシア政府関係者は語る。あるレストランのメニューに、「ハラル食」と書かれた品の横に、豚肉料理が掲載されており、どちらも同じキッチン内、同じ調理器材で作られていたと苦笑する。店主は「これは間違いなくハラル食ですから、安心してください」と言ったそうだ。東京オリンピック・パラリンピックを控える今、ハラルに対する認識を今一度見直す必要がありそうだ。

一方、「ハラルに対応したいけれど、認証取得は不可能」との声を頻繁に耳にする。日本のレストランの多くでは、酒等のアルコールを供し、それらを求めて訪れる客も多い。完全ハラルから得られるメリットは少ないと言える。その場合は、ムスリムフレンドリーという選択肢がある。これまでの経営方針はそのままに、ハラル認証を受けたメニューを取り入れる(セントラルキッチンから購入、店内では温めるのみ)ことで、「ムスリムフレンドリーの店」と謳うことができる。ただし、店内で使用するカトラリーや皿等は、別洗浄とするなどの工夫も要することを忘れてはならない。

「ハラルは難しい」と諦める前に、信頼できる専門家のアドバイスを受け、できるところから始めればいい。MIHASから得られる情報は、とてつもなく大きい。

ハラルをよく知るために