アメリカ:ハラール食品が200億ドル市場になった理由

食のトレンドと政治のトレンドが重なることが時としてある。アメリカがドイツとの戦争中にはザワークラウトを「liberty cabbage(自由のキャベツ)」に、フランスとの関係が悪化した時にはフライドポテトが「freedom fries(自由のフライ)」と変わってしまった。

しかし理解不能な形で進んでいくこともある。大統領選挙以降、ドナルド・トランプが話題をさらう中、ムスリムはアメリカで歓迎されていないと感じるにも関わらず、イスラム教の教えに従って作られたハラール食品の売上は急増している。しかもそれは人口増加を続けるアメリカ国内のイスラム教徒だけでなく、食に対してチャレンジ精神旺盛な若いミレニアル世代でも人気が高まっているのだ。

1998年にShahed Amanullah氏がハラール飲食店を見つけるためのウェブサイトを立ち上げたときは200店程度しか存在しなかったのだが、今では7600店舗にまで拡大しており、ムスリムに対して懐疑的な人の間でもハラール食品は広がっているというのだ。「食べ物は文化共有のための重要な架け橋だ」とAmanullah氏は言う。

アメリカの食文化では、もともと民族料理として扱われていた料理がメインストリームに組み込まれるという流れは、これまでもしばしば起きてきたことだ。かつてはイタリア料理がそうだったし、ハラールと似ている(ユダヤ教徒向けの)コーシャー料理でも同様だ。イスラム教はユダヤ教と同じように特別な調理法が求められており、人道的に動物を扱い調理することが戒律で定められている。

ハラール食品がアメリカの食品市場で占める割合はまだ小さいとは言え、その存在感はあらゆる場所で急速に増してきている。

2016年8月までの一年間における食料品店やコンビニなどにおける売上は2012年と比べて15%増加し19億ドルに達していると、リサーチ会社ニールセンが推測している。

ハラール食品の認証や啓蒙活動を行うIslamic Food and Nutrition Council of America(米国イスラム食貧栄養評議会)によると、レストランからスーパーなどを含めた2016年全体の売上は対2010年比で30%以上増の200億ドルになることが予測されている。

この市場を牽引してきたWhole Foods Market社は、ハラール食品の売上が過去5年間毎年2ケタ成長を続けており、もっとも成長の早い分野の一つだとしている。同社は2011年から毎年ラマダーン向けの広告を打ち出している。

しかしイスラム教は一部ソーシャルメディアにおいて批判の的になることがあり、早くからこの市場に乗り出していた小売店はその被害を受けてきた。Amanullahが運営する店舗検索ウェブサイトは、ボイコット対象店舗の検索ガイドとして使われることもあったが、このようなボイコットは結局のところ目的とは逆に、彼のビジネスを後押しする結果になってきた。

Whole Foods Marketが初めてラマダーン向けのキャンペーンを打ち出したときは、他宗教の休日向けに同様のキャンペーンをしないことで批判を受けた。しかし同社でグローバル食料品コーディネーターを務めるRick Findlayは、これによって影響を受けることは無いと話す。

「Whole Foodsがトレンドセッターになっていると消費者は考えている。最先端を走ってリスクを取ることができる、というのは幸運だと思う」と言う。

人口構成をひと目見てみれば、ハラール事業がリスクというほどのものではないということがわかる。Pew Research Centerによると、2015年の時点でアメリカ国内のムスリムは330万人だったが、2050年までに810万人になると見られており、2030年頃までにはユダヤ教徒の数を抜き、キリスト教に次ぐ第二の宗教になることがわかっている。

それだけではない。American Halal社の最高執行責任者であるAdnan Durrani氏によると、同社が販売するSaffron Roadのブランドを購入する消費者のうちおよそ80%は、イスラム法に従おうとしているわけではなく、単により美味しい冷凍食品を求めている人たちだ、と話す。Saffron Roadは同社が持つブランドの中でも人気が高く、Kroger Co、Safeway Inc、Giant Food Storesなどを含む12,000以上の店舗で販売されている。

しかし大手加工食品会社が全面展開するまでには至っていない、というのもまた事実だろう。世界的なスナック会社であるモンデリーズ・インターナショナル社は主にインドネシアやサウジアラビアなどムスリムが多く、ハラール食が基本となっている国で営業しているが、アメリカで販売している製品は数えるほどしか無い。世界最大の食品会社であるネスレはマレーシアやパキスタンで151のハラール工場を持っており、世界中で何百にも及ぶ認証製品を流通させているが、アメリカでは病院などを営業先とするヘルスケア部門を通じての販売がほとんどである。

小売店でも同様の状況だ。ウォルマートは全4600店舗のうち300店舗のみでハラール製品を販売し、クローガーが品揃えを整えているのは需要のある地域だけだ。

ニューヨーク大学スタインハート校で食品学の准教授を務めるKrishnendu Ray氏によると、一部のアメリカ人がイスラムに対して持つ「負の烙印」によって、ハラール市場の成長が阻害される可能性も、「より新鮮で道徳的なイメージのあるコーシャー料理のようになる可能性もある」と言う。

Ray氏が2016年に出版した「The Ethnic Restauranteur(民族料理店)」では、移民がアメリカの食卓に与えてきた歴史について検証している。20世紀初頭、イタリア料理は「にんにくを使いすぎ」で飲酒を伴うことが多かったため、犯罪活動を連想されることが多かったため、冷ややかな目で見られていたのだという。

DurraniとAmanullahは幼いころにコーシャー料理を食べて育った記憶を持っている。ハラール食品が見つかりにくい時代に、コーシャー食品は次善の選択肢だったのである。しかし今では外食でも内食でも簡単に手に入るようになった。これはニューヨーク市の路上でハラール肉料理の提供を始めたHalal Guysによる所が大きいだろう。人気の高まりに応えて、今後数年間でアメリカ国中に300の店舗開店を計画している。

ニューヨークはあらゆる国の人が集まる大都市だ。Halal Guysが2番目の店舗を開いたシカゴも同様である。しかし3店舗目を開いたのは、カリフォルニアの小さな街だった。

「コスタ・メサ店は小さなショッピングモールの中にあるが、マンハッタンのど真ん中で営業している店からは程遠いイメージですね」とマーケティング担当のAndrew Eck氏は言う。ハラールというのは「大都市の人だけが好きなわけではない。郊外の人だけが好きなわけではない。ムスリムの人だけが好きなわけでもない。文化やその背景の融合なのです」と言う。

Halal Guysはすでに人種構成を超えた、食の好みというところで競争を始めている。ある金曜日の昼の時間帯、Halal Guys一店舗目であるニューヨークのフードトラックでは、会社員や観光客など20名が注文の順番を待っていた。彼らは羊や鶏肉料理を食べたくて来るのであって、宗教的な制限があって来るわけではないと言う。Halal Guysは羊肉の提供をすでに止めているのだが、注文したいと言う客は多い、とEck氏は話す。

コロンビアから来た友人を連れて店を訪れたAlejandro Nova氏は「ニューヨークで絶対に来るべき場所です。どのように肉を処理しているかなど、関係ないです」と言う。

Bloomberg