タイ:イスラム観光市場への進出

タイ南部の観光都市では、増加するムスリム観光客に対応することが新しい潮流になっている。中でも先頭を走っているのは、ハラール・サービスの必要性を感じているホテル業界だ。

 

これまでに無いサービスを求める行楽客とはいっても、タイの観光地で昔から知られているように羽目をはずすような娯楽が求められているわけではない。

 

例えば、数十年間もタイの観光地として広く知られてきたクラビのホテル経営者は、ハラール観光を積極的に取り入れており、今後もクラビにはムスリム客が増えていくだろうと確信している。

 

Manit Damkul氏はハラール観光の潜在的な成長性が高いことに目をつけ、Krabi Front Bay Resortを立ち上げ、オーナーでありながら自身で運営をしている。

 

ムスリム顧客の多いホテルではホテル内のサービスを整備する必要があり、「細部に注意しなければいけない」ということがわかったとクラビ漁業組合の会長でもあるManit氏はいう。

 

四つ星を獲得したこのホテルはモロッコ調の建築と外観を持ち、中心街から近いクラビ川河口付近に置かれている。

 

ホテルの見た目は中東の特徴が示されており、ムスリム訪問者向けであることがはっきりわかる、とManit氏は話す。

 

Manit氏は自身もムスリムであり、サービスから食べ物、アメニティに至るまで、全てイスラムの決まり、習慣、伝統に合わせていると言う。

 

ホテルはまず敷地内にモスクを作り、宿泊客が礼拝など宗教活動を行える場所を確保した。

 

遊泳用のプールは男女別に分かれており、ホテルで提供されるハラール食はクラビのイスラム委員会による認証を受けている。さらに特徴的なのは、他のホテルに置かれているような騒音のうるさいバーなどが取り除かれている点だろう。

 

Manit氏によればホテルの稼働率は高く、静かな環境を好む客であればムスリム・非ムスリムを問わず高い評価を受けていると話す。ホテルの敷地は6400㎡、部屋数は80部屋で、建設にかかった費用は2億バーツ(およそ6.4億円)である。

 

ホテルのオープニング・セレモニーにはChula Ratchamontri Aziz Pitakkumpol氏(タイのイスラム教指導者)が務め、これまでに駐泰マレーシア大使やマレーシア・パーリス州の皇太子などVIPが訪れている。

 

特定の顧客層に特化することにより競争相手が限られることになるので、その市場セグメントの中では大きなシェアを獲得することができている。

 

「私は習慣に流されることがない。新しいことにトライしたいんだ」とManit氏は言う。

 

「クラビ漁業組合の組合長を20年間務め、さまざまな所へ旅行してきた。私自身ムスリムだが、旅行先での食事がハラールで無いこともあったため、食べることができなかった。こういった経験から、ムスリムが楽しんで滞在できるホテルがあるべきなのでは、と考えるに至った」と話す。

 

2016年初頭にASEAN経済共同体(AEC)が発足し観光業市場の可能性が拡大したことにより、近隣諸国からはムスリムを含む観光客の訪問が拡大するだろうと言う。

 

ホテルがターゲットとしているのはマレーシア、インドネシア、中東からの顧客であるというが、驚いたのは中国からの予約のほうが多いということだったという。

 

ホテルは宗教に基づいたサービスを提供するよう気をつけているので、敷地内にアルコール飲料の持ち込みをしないよう宿泊客に求めていると言う。

 

「ビジネス的な観点から言うと、ハラール向けのホテルであると公言することは他の潜在的な顧客を失うことになりかねないだろう。しかしハラール向けのホテルであると公言した後でも、非ムスリムの顧客からの予約は続いている。ビジネス的に見れば、マイナスの影響は全く無かった」とManit氏は話す。

 

ホテル開業三年目を迎えるにあたり、アラブ諸国だけでなく、マレーシア、インドネシアなどのASEAN諸国からの宿泊客拡大を計画している。

 

有名なアオナン・ビーチに面したPhu Phi Maan Resort & Spaを所有しているTheerasak Khanantai氏が2010年にホテルを開業した時は、あらゆる宗教バックグラウンドの顧客に対応し、安定した状況にあったという。

 

その後2015年にホテルの敷地を拡張して部屋数を増やしたのに伴い事業戦略を変更し、完全にハラール対応するホテルに生まれ変わった。

 

ホテルの従業員は全てムスリムのため、ムスリム観光客は自宅にいるような安心感を得ることができる。

 

ハラール・ホテルと言うと多くの人は否定的側面ばかりに注目しがちだが、実際にはそれが利点になるわかったとTheerasak氏は言う。例えば、飲酒をしないためアルコールのない施設や環境を好む非ムスリムの顧客から入る予約数が堅調である、という点が挙げられる。

 

一部にはハラール観光は差別的な響きがあるという考えがあるようだが、Kusuma Kinglek氏は観光客のセグメント化をすることで、観光客の中でもニッチな市場のニーズに向けただけであり、宗教に関係なく誰でも参加できるものだと言う。Kusuma Kinglek氏はクラビのムスリム友好団体(Krabi Halal & Muslim Friends Club)の副理事長である。

 

またホテルは地元のコミュニティと協力し、宿泊客が周辺の住民と交流できる文化観光のようなものも提供している。Kusuma氏はハラール観光の定義はホテルや宿泊という範囲には留まっていないのだという。

 

発足から3年目を迎えた同団体は、地元のホテル業者を含む30人以上の会員を抱えている。

 

観光業の促進は民間だけに任せるのではなく、国や自治体が積極的な役割を果たすべきだとManit氏は話す。

 

Manit氏によると、クラビ市がハラール観光の目的地となるよう政府は全面的に支援しており、タイ観光委員会の会長であるIttirit Kinglake氏は国・自治体両方のレベルでハラール観光の振興に努めている。

 

「長期的にはターゲット層に注力していかなければ行けないだろう。施設の整備計画とマーケティングのキャンペーン計画は出来上がった。ターゲット層からの利用はこれからも増えるだろうと確信している」とManit氏は話す。

 

 

Bangkok Post